世界が終わるような、天変地異みたい。
「…から中継でお伝えします。」
テレビのキャスターがそう言ってから画面が切り替わった。報告者はヘルメットを抑えながら氾濫した川沿いからリポートしている。
雨戸がガタガタと音を立てて、家が少しだけ揺れた。風の強さになんだかわくわくして、そんな私自身が少しだけ情けなくて、昔からそんなところは変わってないなって思った。
世界が終わるような、天変地異みたい。
独り言だって他人事だった。
暗い部屋に光るテレビは各地の被害状況を伝え続けている。
氾濫。警報。避難。
目を瞑ったら風の音とキャスターの声が一緒になってあの人の声がしたような気がした。
しんじゃえばいい。あんな人。
全然本気じゃないけど、ちょっと本気。せっかくだからちょっとくらい痛い目に遭えばいいんだ。痛い気持ちになるのはもう嫌だな。なぜか思い出してしまうあの人がこの風にさらわれちゃえばいい。
上の階から足音がして、近くに誰かがいるってことを思い出した。
部屋に一人でいると、誰かが生きてるってことがなんだか不思議。世界にたった一人残されたような気持ちが、しぼんだ風船みたいに不貞腐れて横たわった。
突然やってくる世界の終わりはチョコをひとかじりしてバイバイしたい。甘くてちょっと苦い唾を舌に残して、笑って一瞬にして消えてしまいたい。
ふとテレビに映った雨雲の様子がサーモグラフィみたいに見えて、真っ赤になった私の居場所が熱をもってはちきれそうに思えた。
あなたのためになりたかった明日は多分来ないし、舐め尽くした昨日までの思い出は、骨しか、いや骨すら残らないかも、しれないね。
屋根が外れそうなほどの強い風が建物自体を揺らした。
突然、甲高いガラスの割れる音がした。
きゅっと目が覚める。
残酷なまでに猛烈な雨が吹きこむ。
なんで、わたし、ばっかり。
痛いほど泣きたくなってベランダに飛び出した。割れた窓ガラスは裸足の肌をちぎるように裂いた。
頭を吹き飛ばすような風に吹かれて、思いきり叫んだ。声は届かない。雨風に吹かれて消えていく。
何を考えていたか、もう忘れた。
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