ピリオドを。
「お互い頑張ろうね」
有希はそう言った。
「…何を?」
僕はその言葉の意図をわかりたくなくて、わかろうともせずに、わからないふりをして、聞いた。
「お互い、いい人を見つけられるように、さ」
「……いい人、か」
ああ、僕らは終わっていたんだ。そんなことに今更、気がつく。ピリオドを付け損ねた僕の中の一文に、ようやく黒い点を一つ置けたような気もした。ピリオドを打つことを拒み続けてここまで来たのに、色んなことを見ないふりをしてここまでやって来たのに、有希のそんな些細な一言で、僕は何だかやるせなくなったのかもしれなかった。こだわったって、無駄なのかもしれない。諦めに近い感情が燻る。
本当は後悔させてやりたいとすら思う。僕を遠ざける有希に後悔させたい。そう思う。
遠ざけることに意味があるのだろうか。少なくとも近づこうとすることに、意味はなかった。
冬になるたびに有希を思い出して、深夜に電話をかけては言葉を少しずつ交わす。それだけで嬉しかった。楽しかった。受け入れられているものだと思った。有希がどう思っていたかは、僕にはもうわからない。
「じゃあもう電話、やめよっか」
試すように、祈るように言った。嫌だ、と言って欲しかった。彼女がそんなこと言うはずもないことはわかっていたのに、まだ期待している。僕は、馬鹿だ。
「あ、じゃあもう切るね。おやすみ」
「……もう、かけないから」
伝わって欲しくない。本当は伝わらないでほしい言葉は有希に聞こえていたのだろうか。どっちでもいい。どちらにせよ、もう僕からは電話をかけない。
寂しくなったら眠ればいい。夢の中にも彼女を登場させないくらいの深い眠りにつけばいい。
寂しくなればいい。僕以上にいい人がいないことを知って寂しくなればいい。
エゴ?わかっちゃいる。
顔の油がべっとりとついたスマホの液晶画面を撫でる。
執着、みたいだ。
なかなか拭き取れなかった。
0コメント