もしもピアノが弾けたなら。
♪もしも、ピアノが、ひけーたなら〜
このフレーズで始まる西田敏行の歌がふわっと頭の中で浮き上がった。
目の前には、アップライトピアノ。妹が何年か前まで毎日弾いていたその黒い巨大は、今はもうほとんど弾かれているのを聞かなくなった。
「俺は何歳になっても新しいことを始めて、みんなことをドキドキワクワクさせてやるよっ!」
UVERworldのTAKUYA∞がMCで熱く語っていたのを思い出す。実際彼は20歳でピアノを始めたんだと聞いた気がする。
僕はピアノが弾けない。いや、正確に言えば弾こうとしたことがない。幼い頃、ヤ◯ハの体験教室から泣いて帰ってきたことがあるほどだ。まあそのことはもう覚えてはいないのだけど。
とかく、鍵盤との相性が悪い。鍵盤ハーモニカ(ピアニカともいう)さえ不得意で小学校の音楽の授業は憂鬱だった。カエルの歌くらいしか弾けないのだから仕方がない。故にピアノなぞ、弾こうとするわけもなかった。
僕の音楽体験のルーツはKANというアーティストにある。彼はピアノでの弾き語りを得意とするソロアーティストで当然ピアノの腕前はすごい。歌いながらあれだけ弾けるのは、すごい。
そんなKANが根底にあった僕は、それでもピアノが怖かった。でも弾きながら歌うことへの憧れがあったのは確かだ。
目の前のアップライトピアノの蓋を上げる。えんじ色のフェルト布を外すと白と黒の鍵盤が現れる。
ポーン、と一音鳴らしてみる。なんにも、わからなかった。
もう一度、ポーン、と鳴らすと何かがわかる気がした。
さらにもう一度、ポーン、と鳴らすと、思い出した。弾きながら歌いたい歌があったことを、思い出した。
ONE OK ROCKの『Pierce』。切ないメロディと歌詞は何度聴いてもジンとくるものがある。
TAKAが歌うなら、僕も歌いたい。TAKAがピアノを弾くなら……つまりそういうことである。
ピアノを始めて4日目。最終目標は『Pierce』を納得できるレベルで弾き語れること。そう決めた。
冒頭の西田敏行のあの歌の続きを、僕は知らなかった。
もしもピアノが弾けたなら
思いのすべてを歌にして
君に伝えることだろう
もしもピアノが弾けたなら。
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