君の名は。
霊がついていると言われた。肩に。特大の。
それが肩の痛みの原因か。なんとなく腑に落ちていると、霊感があると言って憚らない某氏はさらに言った。
「両肩にね、どかっとね、いっちゃってるね」
両肩か。わかる。両肩重いもん。
「どうしたらいいですかね」営業スマイルを振りかざす。
営業3年目。業務用スマイルと疲れ顔を使い分けられるくらいには小慣れて来たはずだ。
「うーん、祓っても取れないタイプだわね。飽きられるのを待つしかないね」
うーん、そう来たか。
ここ数ヶ月、いやに肩が重くて硬くて違和感があって、とはいえその正体なんてとっくにわかっていた。同じ体勢で延々とパソコンに向かっている日もあるから原因はきっとそれだろうが、ただそれを認めてしまったら中年男性の仲間入りを自分の中で肯定してしまうみたいで、なかなか受け入れることができなかったのだ。
ある日の営業部での飲み会後、新宿駅前にひっそりと坐する占い師のようないでたちの男を発見して、酔っぱらって気持ちが大きくなっていたのだろう、普段はそんなところ見向きもしないのにその日に限って占われてみるかという気持ちに至ったのである。
冒頭に戻る。
「じゃあ、我慢するしかないですかね」営業用スマイルはいつしか魔法が解けたみたいに崩れ落ちていた。
「んー。たとえば誰かに肩揉んでもらうとかね。気は、紛れるかもね」
結局それかと本心から笑うとすごく嫌な笑い方になることに鏡を見ないと気づくことはできないが、それはもう仕方がない人間なのだからと一人納得して、3000円を占い師に渡す。
知ってるよ。
霊なんかじゃないだろう、君の名は。
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町田康の文章読んだすぐ後に書いたら町田康みたいな一文の長さになった。影響をすぐ受けちゃうクソにわかなのだった。
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