「冬は寒いからね。」

可愛らしいピンク色のウサギと青色の小グマが手を繋いで横に並び、眼前に立ちはだかっている。
僕は勇気を振り絞って聞いた。
「君たちは何のためにここにいるの。」

可愛らしいピンク色のウサギが可愛らしい顔を歪めて答える。
「大事なものを守るためさ。幸せとか、平和とかをね。」
青色の小グマはつないでいない方の手を閉じたり開いたりしながら続ける。
「そうさ、冬は寒いからね。」

僕は肩を上げて眉尻を下げる。
「僕は何も盗らないよ。自分が楽しくて幸せなら、それでいいからさ。」
可愛らしいピンク色のウサギは威嚇するみたいに声を低くして言う。
「信じられるもんか。みんなみんな小さな幸せを狙って奪おうとするんだ。多数決が全ての世界で、多い方が少ない方を虐げる。いつだって少ない方が損をする。そしてそのことに多い方は気づかないんだ。少ない方のみんなの、小さな幸せ守りたいんだよ僕たちは。」
青色の小グマは真っ赤なマフラーを取り出し、すぐさま続ける。
「そうさ、冬は寒いからね。」

僕は屁理屈で返す。困った顔が見たいのだ。
「でも少数派が尊重され続けるならみんなが少数派になろうとするかもしれないよ。そうしたらおかしなことになる。」
可愛らしいピンク色のウサギは自信満々にして胸を張る。
「そういうのはもう少数派って言わないんだよ、お兄さん。僕が言いたいのはね、幸せの絶対量の配分を間違えちゃいけないってことなんだ。だからこうして多数派の動物から幸せを守っている。ここを通すことはできないんだ。」
青色の小グマも頷く。
「そうさ、冬は寒いからね。」

僕は一旦考えてからこう答えた。
「確かに、多数派がいつも正しいとは思わないよ。多数派が変な方向に行ってしまうこともある。でも変な方向に行ってることに、きっと多数派は気がつくはずだよ。」
可愛らしいピンク色のうさぎはわかってないなぁ、と呟いて僕を見つめる。
「四季があるのは、どうしてだかわかるかい。地球が僕たちの知らぬ間に公転してるからだ。朝と夜があるのはどうしてだかわかるかい。地球が僕たちの知らぬ間に自転してるからだ。僕たちの知らぬ間に動いているこの球体みたいにいつの間にか1日が終わり、季節は変わるんだ。」
可愛らしいピンク色のウサギは青色の小グマの丸い手をさらに強くぎゅっと握りしめ、言った。
「これから冬が来る。多数派が間違えてしまう、少数派が凍えそうな冬が。誰も気づかぬうちにね。だから、気付けているはずの僕たちだけでもこの幸せを守って越冬しなきゃいけないんだ。おわかりかい?」
眉間にしわを寄せて聞いていた青色の小グマは鼻をすすって言う。

「そうさ、冬は寒いからね。」


…………………
一行目だけある作品を引用し、創作した。
第132回芥川賞を受賞した阿部和重著『グランド・フィナーレ』の冒頭だ。

資本主義とか共産主義とかよくわかってないので野次馬感覚でそれっぽいこと書いたけど、もっと勉強しなきゃって感じ。
そう、冬は寒いからね。

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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