二人一組
「世界中のみなさん、こんにちは。今日から二人一組になって行動していただきます。では、今から相方を見つけてください。繰り返します……」
家の近くに立っている地域放送用のメガホンからゆるゆるとそんな発表が流れる。
「世界中のみなさん」。
なんて仰々しい文句だ。なんの冗談だろう。
博之は二度寝をしようと再び目を閉じ、意識をまどろみへ沈める。
生温い外の空気が肺に入ってきて目を覚ましたのは正午過ぎのことだった。
家には誰もいない。
何気なくテレビをつけるとワイドショーがやっていて、キャスターが二人、いやに近い距離感でニュースを伝えている。
「本日、国際連合から発されました緊急号令が実施されます。みなさん、生きていくために必ず二人一組になって行動してください。尚、血縁関係にある人間と組むことは禁止されておりますのでご注意ください。」
意味がわからない。陳腐すぎる。
二人一組のキャスターは理解しがたい重大発表をしてから、東京のおしゃれなカフェ特集に話題を変えた。日差しは段々と角度を下げ、家中の影たちが形を変える。
二人一組、か。
カップルはカップルで組むのだろう。
親友がいれば親友が組んでくれるのだろう。
しかし、彼女に自分以上に大切な親友がいたら?それがもし、万が一、男だったら?
もし親友に自分以上に大切な存在がいたとしたら?一番の親友だと思っている人の中で自分が一番でなかったら?
何かを手放してまで自分を選んでくれる人なんてこの世の中にいるのだろうか。
世界人口が奇数なら、最後の一人になりたい。博之は切に願う。
薄暗くなった部屋で、テレビだけが賑やかに光を放つ。
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