適齢期

結婚適齢期の女がいた。名は加奈という。
29歳、OL。周りの友人たちは結婚しはじめ、母親になっている者もいる。そろそろ私も結婚を考えなきゃイキオクレル。そう思ってから加奈は最近"婚活"をはじめた。

婚活パーティーで知り合いたいのはやはり年収の良い職についている男性である。欲を言えば見た目もよくて年齢も近いほうが良い。そしてもっと欲を言えば自分自身の価値も認めていてほしい。そんな男性と結婚がしたい。しかしそんな条件のいい男は希少で、そういう男は既に誰かと結婚前提のお付き合いをしていたりするものだ。加奈は自分にそこまでの自信を持っていなかったから、ある程度の妥協をする覚悟はもう持っていた。

加奈はその日も婚活パーティーに赴いた。パーティーのために用意したロイヤルブルーのドレスは本気過ぎず、かといってラフすぎないデザインで加奈にとっては具合が良かった。ロイヤルブルーのドレスを揺らしながら会場をぶらつく。
遠くの方に顔が好みのタイプの男性がいた。女性のグラスにワインを注いでいる。慣れた仕草で女性と談笑しているのが見える。さっと手元の資料と彼を照らし合わせた。
年収、申し分ない。
家柄、いい。
歳、近い。
そして、顔、良い。
これは素晴らしい。あとは自分を認めてもらうだけ…。
加奈の胸で"期待"がリズムをとっている。そのドラマーは4回カウントをとって、バスドラムを踏みながらスネアを叩きだす。
そこに"不安"というベーシストが参加してくる。ドゥムドゥムと4弦を鳴らす。
そのグルーブは加奈の身体を否応なく揺らし、体温を上昇させる。

「ちょっといいですか?」
後ろから声がかかる。加奈は振り向いて相手を確認する。
そこには金持ちそうな30代後半の男が立っていた。スーツにはシワひとつなく、ネクタイも上物に見える。チラリと見えた左手首の時計は恐らく、ロレックスだ。
しかし身長はヒールを履いた加奈より少し高い程度の中肉中背で、顔も平凡そのもの、いや少し残念な部類かもしれない。前髪も寂しくなりはじめている。
「はい、こんにちは。初めまして。加奈といいます!」それでも加奈は全開の笑顔で中年男に返事をする。
「加奈さん、ですね。僕は潮田と申します。よろしく」

結果から言えばその場の会話は弾んだ。蹴ったボールがそのまま返ってくる平らな壁のように潮田は実直だった。加奈は居心地の良さに気づいて少し戸惑いはした。が、潮田からの食事のお誘いを断る理由もなく、後日会うこととなった。

「加奈さん、僕と付き合ってください。」
3回目の食事の帰り際、潮田はそう言った。
並んで歩いていたはずの潮田が突然止まり、加奈の背中に投げかけてきたのだ。

加奈は瞬時に頭を巡らす。頭の中では何本ものギターが鳴り響いている。

30歳を目前に控えている女性に告白したということは結婚前提なのか、はたまたただのお遊びなのか、判断つかない。ただこれだけはわかる。加奈は潮田に価値を認められているのだ。
潮田と出会った婚活パーティーにいたあの理想に近い男性を思い出す。
まだまだ探せばいるのだろうか。理想の男性は。理想の男性がいたとしてその人に自分の価値を認めてもらえるだろうか?
そんな人を探していて30代半ばになり、誰にも価値を認めてもらえなかったらどうなる?

わからない。わからない。自分の身の振り方がわからない。
答えを出すまでにもっと時間が欲しい。
加奈は後ろを振り向けない。

……………………
これはイノウエの現状を遠回しに書いた創作文なので興味のある人は深読みしてみてください。
時間の無駄なのでやっぱりそんなことしなくていいです。

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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