三日坊主
三日坊主は今日も元気だ。
今日は高村くんのところに来ている。
高村くんはこの春から中学1年生になる。ニキビがちょっとずつ目立ち始める、心身ともに難しい時期の少年だ。
三日坊主は言った。
「今日も元気に丸坊主っ」
目がらんらんと光る。暗闇に浮かぶ猫の目みたいだ。
高村くんは日記をつける。
中学生になって何か変化を求めたのか、自分から日記をつけることを決めた。4/1から、律儀にだ。
4/1(月)
今日はまだ学校が始まってないから書くことはない。中学生になったら勉強も部活も頑張る。特に部活だけどサッカー部に入ろうと思ってる。サッカー部に入ったら………………
1日目の高村くんの日記は10行に及んだ。気合い十分だ。三日坊主はほくそ笑んで高村くんの背中を見つめる。
「まだかなぁ。」三日坊主は手ぐすねを引いて待っている。
4/2(火)
小学校のやつらと遊んだ。矢田のやつ、中学生になるからって言ってエナメルバッグ買ってもらったらしい。羨ましい。通学バッグなんてダサいだけじゃん。あいつらと同じクラスになれたらいーな。
2日目、高村くんはちょっと面倒くさそうに机に向かうと5行だけ書いて鉛筆を置いた。
ふわぁと欠伸をしてからゲームを手に取る。三日坊主は部屋の隅っこでニヤニヤしている。「まだかなぁ。」意地悪な目を高村くんに向ける。
3日目。
「もういいよねっ」
三日坊主は机の上のノートを手に取り本棚に紛れ込ませる。
高村くん、部屋に帰ってきた。高村くんの頭の片隅に「日記」という言葉がピリッと火花を散らしたけどすぐに消えてしまった。
三日坊主は「じゃあ、またねっ」と言って高村くんの肩に手を置くとスッと消えていった。
「今日も元気に丸坊主っ」
そう言ってニヤッと笑う三日坊主は、今晩誰の肩に手を置いたのだろう。
とりあえずイノウエの元には訪れなかった三日坊主。
いつ自分の肩に手を置かれるか戦々恐々である。
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