せんせい③

その日は、平成最後の梅雨が明けていた、7月の初めのことだった。梅雨は彼女自体を憂鬱に思う前に去っていった。
梅雨が女性的なのはなぜだろう。「しとしと」という擬音が丸みを帯びているからか。それとも「恵みの雨」と形容される必要不可欠な潤いが、母性を感じさせるからだろうか。
とにかく梅雨が居なくなって日差しに痛みを感じるようになった7月、僕は"せんせい"と再会した。

「君に会えて嬉しいよ」
せんせいはハイボールを口につけながら仰った。無論、僕の方が何倍も嬉しい。そう伝えると「まあそうだろうな」と笑う。せんせいはそんな人だ。

「作家であることに飽きたんだよね」せんせいは言った。「だからいま、学生とふれあう機会があるっていうのは、本当に良かったなと思う」
素直にすごい、と感じる。作家であることに飽きることができる。それこそが「せんせい」の"せんせい"たる所以なのだろう。

まあ好きな酒飲めよ、と言ってメニューを手渡してくれるせんせいはニヤリと笑っている。少し痩せたようにも見えた。

僕は、今、何も書くことができない。ふっと湧いたインスピレーションすら否定して、忙しさを口実に文章を綴ることを諦めている。

しかし、だ。せんせいと会うだけで、こうしてブログを更新することができる。特に何か言われたわけではないが、せんせいの存在自体に起因する「せんせい効果」をとことん享受したのだ。

「君はなんにでもなれる」
せんせいは言った。年齢面での意味合いも含んではいたが、そこにあったのは純粋なエールだ。せんせいからの、エールだ。受け取らないはずがない。

また頑張ってみようと思う。インスピレーションなんて湧かなくたって、馬鹿にされたって、コケにされたって、見向きもされなくたっていい。自分が後悔しないように生きていきたいだけだ。自分にしか書けないことが必ずある。そう信じる。誰かが批判してきたって、そんなもの屁でもない。おんなじ物差しで、人は人を測れないのだ。

僕は僕で、あなたはあなた。
またこれからよろしくお願い申し上げます。

せんせいも、また。


そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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