奇跡すぎてしまった。
生まれた。
光を知って、色を知った。夕焼けを綺麗だと思った。雨が冷たかった。音楽で体を揺らし、あの子をいい匂いだと思った。
笑うことができた。笑わされた。笑わせた。それは1人じゃないからできた。
出会っては別れ、もう会わない人もいる。これから出会ってかけがえなくなる人も、多分いる。明日が当たり前にあるって信じてしまうからそう思える。
全てが当たり前なんかじゃない。時折そう感じるのだけど、すぐに忘れる。地球が丸くて太陽の周りを回っていることを、頭ではわかっているけど実際には見たことがない。そんなような信じ込まされたまやかしを自分の身体に練りこんでしまった。コペルニクス的転回の起こりえない僕たちの常識さえ、当たり前なんかじゃないんだと思う。
いつまでも足踏みしてしまうのは、いつまでも同じ日々が続いていくと信じてしまっているからか。誰も救ってくれはしないけど、誰かを救うことはできるだろうか。
失ってから気づくものを失う前から気づいていたいのに、冬の空気に当てられた僕たちは夏の熱帯夜を思い出せない。蝉の鳴き声を聞きながら白い吐息をマフラーで隠すことを、想像できない。
痛む心を持っていること。それだってきっと痛まないよりずっといい。
奇跡だと気がつくこと。気がついたって仕方がないのかもしれないけど、気づかないよりはきっと、いい。
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