イノウエと歌

「イノウエ!オンチなんだから歌うのやめて」
クラスのマドンナが放った強烈な一言は小学6年生の僕を打ちのめすには十分すぎるものだった。

当時の僕は仮面ライダー電王が大好きで、親友と一緒に電王ごっこに興じてはその主題歌を歌う毎日だった。
もちろん自分の歌が上手いか下手かなんて考えもしない。そんなことはどうでもよかったのだ。

クラスのマドンナが斜め前の席になった時、テンションが上がった僕は親友と共にそれを喜び、歌った。そこに冒頭の一言だ。

自分の歌が否定されたことよりもマドンナが僕自身を否定したように思えて、それがとてもショックだったのはよく覚えている。
涼やかで綺麗な目をした白い肌のマドンナはその時、眉間にしわを寄せていていかにも不機嫌そうだった。それでも美人は美人だった。それもよく覚えている。


僕の両親は吹奏楽部出身だ。幼い頃僕は車の中で、ある種の音楽教育を施されては両親を失望させていた。
赤い車が走る。その車の助手席にはカーステレオから流れる曲に手拍子を打つ少年がいる。戸惑い顔の5歳の僕だ。しかし、どうしたってそれすらできない。もちろん、4拍子か3拍子かも聞き分けがつかない。その程度のセンスしかなかった。

中学生になり、変声期を迎えた。僕の場合はインフルエンザついでに変声したような記憶があるが、確か中1だったはずだ。
その頃になって初めてカラオケなるものに足を踏み入れることとなった。
記念すべき「第一回イノウエ家カラオケ大会」の開催である。

マイクを握って曲が始まる。特撮ヒーローの主題歌だ。ところが音程を合わせられない。母が耳をふさぐ始末だ。辛い。前は出てた音域も出ない。辛い。

転機が訪れたのは中学2年生の時。僕はあるアーティストを好きになった。音楽なんて興味がなかった僕にとって初めての、自分から好きになったアーティストだった。

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続く!

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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