限界と覚悟を
「…っていうただの提案なんだけど」
伏し目がちにその人は言った。きっとお互いがお互いの距離感をつかめなくて、目を合わせられないのだろう。
その人は役者だった。人生かけて芝居をやるという、しっかりとした覚悟をもった表現者だった。僕は熱燗を傾けて視線を落とす。頰が熱い。何のせいで熱いのかは考えないようにしてお猪口を唇につける。
「一人芝居…かぁ」
まずはその何たるかを勉強しておくね、と言って僕は眉毛を少しだけ上げて、視線を斜めに流した。
一人芝居の脚本を書く、という考えもしなかった案をもらって俄然興味が湧く。
やってみないとわからないことがこの世にはたくさんある、なんて人並みな格言は人並みの僕みたいな凡人にはうってつけの文言だろう。
早速YouTubeを開き「一人芝居」を検索する。これが上位に上がっていた。
オチの弱さが残念だったが、"不在の表象"を電話というツールを用いて魅せるというのは単純明快かつ多彩に登場人物を増やせるよなと気づき、とても参考になった。そう、そんなことすら思いついていなかったレベルなのだ。僕は。
自分が何になれるかなんて、全くわからないし、わかりたくもない。就職するからって仕事が全ての人になりたくない。
自分の得意なことを認められたいし、苦手なことは得意にしたい。運動神経に限界はあるけど、発想力に限界を作っちゃだめだって、思う。偉そうに言ってるけど思ってるだけです。
限界って何だ?こんなにも世の中には物語が溢れているのに、とどまることを知らずに、新しい作品がどんどんと誕生する。人間の発想に限界なんてきっとない。
自分ができる範囲のことを全力でやってみたい。そのために必要なのは時間じゃない。覚悟なんだろう。
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