「20」①

◎「20の短編小説/小説トリッパー編集部編」
人気作家20人が「20」をテーマに短編を競作。恋愛、SF、ミステリーなど、エンターテインメントの魅力を凝縮した作品から、ジャンルに収まりきらない現代小説まで、書き手の持ち味を存分に味わいながらも、読み手のイメージが鮮やかに裏切られる、最強の文庫オリジナル。

「20」を題材にしたアンソロジーを読んで、作家さんたちの無限の想像力に脱帽しまして。
僕もちょいと挑戦してみようというのが今回の企画です。井上荒野さんの「20人目ルール」みたいな読後に寒気が走るような作品が好きです。自分で書けるかはさておきね。それでは、スタート!

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千春の背中ばかりを見ていた。彼女が遠くにいってしまうまでずっと、4年間、ひたすらに。
そして今も、彼女の揺れる背中を見つめ続けている。爽やかで淫靡な背中だ。


彼女との出会いは小学一年生の時だった。学区外の幼稚園からやってきた俺には入学当初、友達なんてほとんどいなかった。それでも小学一年生なんてガキの中のガキだ。男女の区別なんてなくて、ちょっと話せばすぐに誰でも仲良くなれる。彼女――鈴木千春も例外ではなかった。出席番号順で一つ前に彼女はいた。四年間クラスも一緒だった。俺、鈴木哲也は毎年一学期、席替えまでの間、鈴木千春の背中を眺めていられたのだ。

一年生の時、千春は活発な生徒だった。授業中に手を上げることが世界で一番価値があることかのように、高らかに手を上げ、清らかに声を上げた。そのきりっと清冽に上がった腕を、一つ後ろの席でぼんやりと見上げていたものだ。もちろん当時の俺はただすげえな、と思っていただけだった。

彼女と最初に交わした言葉なんて覚えちゃいない。基本的に友達になった瞬間のことを覚えているほうが珍しい。忘れてしまう方が自然だ。そう思う反面で、どうして思い出せないのか悔しく、もどかしい、そう強く感じる自分もいた。

それでも覚えていることがある。

その日は金曜日だった、はずだ。
俺は小学一年生の時、教科書をすべて学校に置き去りにして登下校していた。そしてそれが親にばれ、こっぴどく叱られた。

「いったん全部持って帰ってきなさい!」

赤くなった母の顔をよく覚えている。そこまで怒る理由がよくわからなかった。今でもよくわからない。

そうしてその金曜日の放課後、すべての教科書をずいずいとランドセルに詰め込んでいると、千春は振り返って声をかけてきた。
「何してるの?」
「持って帰らなきゃいけなくて、ぜんぶ」怒られちゃってさあ、と俺はなんだか照れくさくて首の後ろを掻きながら言った。
しかし、ずいずいと雑に詰め込んでいた教科書の、あと数冊が入りきらない。

すると見兼ねた彼女は魔法みたいに教科書をすっと出し入れしながらすべての教科書を収納した。
「すげえ…ありがとう。」俺は感動しながら彼女を見やった。
彼女の二重瞼が弓状に垂れる。

しかし、今度は閉まらない。パンパンに膨れ上がったランドセルの蓋は俺一人では閉められないほど浮き上がっていた。
千春は呆れた顔をしながらも、どこか楽しげに、ランドセルの蓋を引っ張る。二人がかりでどうにか閉めたランドセルはガチガチに固くなっていた。

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続く。

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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