メロンパン・自撮り・羨望②
店の電話が鳴った。
のろのろと受話器を取る。
「お電話ありがとうございます。…」
マニュアルの挨拶を早口に言い切り、応答を待つ。しかし待てども待てども耳に流れ込むのは沈黙だった。
相も変わらずメロンパンのうたは店内に流れ続けている。受話器の沈黙で片耳を塞いでいるからか、無邪気なその歌声が際立って聞こえた。
「あの、もしもし」痺れを切らして坂本は言う。迷惑電話だろうか。すると電話の主は口火を切った。
「お前には、お前がはいってない、ざんねん。」
「…は?」
「こないだアーモンドカステラたべたけど、アーモンドは入ってなくてかたちだけ」
「き、切りますね」これは何事だろう。
「わたしがいちばん好きなのは、お前。だけどお前ははいってない」
頭がぼうっとしてきて、坂本は膝から崩れ落ちた。小泉の笑顔とメロンパンの甘みを思い出して、吐き気まで催す。意識が飛んでいく。
目が醒めると、坂本は病室に横たわっていた。安い消しゴムで適当にこすったみたいに、頭の芯がぼんやりしている。再び目を閉じる。
横にあるテレビがワイドショーを流している。坂本はうっすら目を開けて画面を眺める。
「…深夜3時頃、坂本隆之容疑者23歳がコンビニエンスストア勤務中、同コンビニエンスストアで特定の菓子パンを次々に開封し、荒らし回り、それを自ら撮影し、Twitterにアップロードするという事件が…」
テレビ画面には店のメロンパン全ての表面を剥ぎ、それを踏みつけ、自撮りをしている坂本の写真が映し出されている。
ニヤついたその顔は自分とは別人のように思えて、坂本は背筋が寒くなった。
耳の奥の方で、男の声が聞こえた。
"お前には、お前がはいってない、ざんねん!"
………………………………………
楽しい話を書きたかったんですけど、ホラー風味になってしまいました…
すみません。お題をくれたそこのあなた、ありがとう。
セブンイレブンではこの"メロンパンのうた"なるものが本当に流れているそうで、実際に聞いて見たら中々怖い歌でした。
あんパンにはあんこがはいってる
メロンパンにはメロンがはいってない
カレーパンにはカレーがはいってる
メロンパンにはメロンがはいってない
わたしがいちばん好きなのはメロンパン
だけどメロンははいってない…ざんねん
わたしがいちばん好きなのはメロンパン
だけどメロンははいってない
電話の主が囁くフレーズはこの歌の歌詞からの引用です。個人的には
「お前には、お前がはいってない。ざんねん」
っていう替え歌はお気に入り。
これ見てる人いたらお題ください…
やりがいで舞えるので。
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