夢で逢ったなぁ

起き抜けの夢はどんどん濁って遠ざかる。

でも確か、朧げだけど、あいつと仲直りする夢を見た気がする。目つきの悪いくせっ毛のあいつと。

お互い肩を組んで「すまなかった」と言って笑う。それだけだ。それだけでも十分だった。

意識の外では雨の音がうっすら聞こえる。でも関係ない。
夢の中では、ほんのり甘い青空、満開の桜、そして目の前ではあいつが笑っている。

「悪いことしたな。」
そう言って謝るあいつは見るからに照れ臭そうで、それだけでも僕は許してしまう気持ちになる。
「全然、いいよ。」
仲違いのきっかけなんてすっかり忘れてしまった。
「あいつ」が親しみのこもった「おまえ」になる。丸いっこい響きの「おまえ」には懐かしいような恥ずかしいようなくすぐったさがあった。
和やかでぬくぬくとした酸素を大きく吸い込んで春の味を香りで感じる。


スピーカーのボリュームをあげていくみたいに、徐々に窓にぶつかる雨音が迫ってくる。
現実世界に意識が戻ってくるやいなや、夢の世界はその輪郭を崩していく。掴もうとすればするほど霧のようにかき消えていくのだ。

かすかに残った夢のかけらへの未練を枕にふわりとなすりつけて起き上がる。外では冷たい雨が激しく降りつけていた。

寒い春の、朝のことだ。

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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