僕がポケモントレーナーだったら
オレはサガミシティのイノウエ!ポケモントレーナーだ!
………
僕がポケモントレーナーだったとする。
旅に出て一年。ジムバッチは2つ。愛するポケモンに囲まれながら今日も歩いている。
ところが、僕には3つ目のジムバッチがどうしても取れない。一度挑戦してコテンパンにされてからポケモン達もトラウマになってしまっているみたいだ。
他の地方に散ったライバルや後輩たちはそれなりに勝ち進んでいるらしい。風の噂で聞く中には、ジムを制覇しポケモンリーグに挑戦している同い年のトレーナーもいる。
旅立つ前そのトレーナーとバトルしたことがあった。
お互いのポケモンで死力を尽くして戦い、残ったのはフィールドに漂う達成感の煙。それくらい拮抗していたのだ、多分、あの頃は。
今の僕といえば、3つ目のバッジごときが取れなくて、怖くて、逃げて、"満足"という感情で現状の端から端までを必死で染めようとしている。食いしばる歯からは苦い液体がじわっと広がるのがわかるほど、必死だ。
トレーナーではない友人、親戚はこの現状を"すごい"と言う。"自分にはできないから"と付け加えて。
たかだか2つのバッジ、取れても取れなくても変わらないのにそれを偉業かのように囃し立てる輩に腹を立てながら、安堵する。
最初は無性に腹が立っただけだった。何にも知らないくせに、と憤ったものだ。
でも今はこの現状ですら肯定されているようで安心する気持ちが半分、いやそれ以上、滲んでいる。
ポケモン達もモチベーションが上がらず、3つ目のジムバッジに挑戦できるほど意欲的な状態ではない。
多分、目標が曖昧なのだ。目指すべき場所、目指したい場所があまりにも遠すぎて湿っぽいため息が出る。レベルの高いポケモン達を従えた猛者に勝てる気がしない。そしていずれは自分もと思う心さえ、諦めを帯びた背中を向けてうずくまっている。
自信がある人が羨ましい。自信を盾に自分の功績を高らかに周りにアピールできる面の皮の厚さが羨ましい。バッジ2つで誇らしげな顔をできるほど、僕は強くも弱くもないのだ。
今日もまた、歩く。
野生のポケモンを倒したり捕まえたりせず、ただひたすらに歩く。モンスターボールにポケモンを入れたまま、あたかもトレーナーではないかのような澄まし顔をして、歩く。
すると、"臆病さ"が後ろからついてきて鳴き声をあげたのがわかった。
僕は振り向いてしゃがみこみ、そいつの頭を撫でてボールにしまった。
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