言ってくれなきゃわからないよ。
見つめ合うと素直に
お喋り出来ない
♪TSUNAMI/サザンオールスターズ
僕の高校の先輩、桑田佳祐は歌った。
TSUNAMIで歌われているのはひと夏の失恋だと思われるが、友達以上恋人未満の男女を描写したこのサビのフレーズにはやはり痺れる。
というか、なんなら見つめ合わなくても素直におしゃべりできないと思うけどね。いまどきの友達以上恋人未満って。
むしろ見つめ合って素直におしゃべりできる状態って無茶苦茶すごいのでは。まあそんなことはどうでもいいんだけど。
ところで、僕は何か物を書くとき、セリフを書くのが苦手だ。喋らせすぎるとそいつがデシャバリみたいになってしまう気がして、無口に、そして核心をついた言葉は言わないように、なぜだか迂回ルートを探してしまう。できる限り態度の描写だけで完結させたいんだよな。
言葉に関しては、受け手に伝わったことが全てだ。発信側がどう思おうが、言葉として伝わったものが全てなのだ。
例:
好きだ、と言おうとして、口をつぐんで、目を閉じる。深呼吸とともに目を開けると正面の彼女を、さっきより遠く感じた。
「どうしたの?」彼女が聞く。
引用:『林檎は枯れない』 堀一分
こんな具合に彼女には特に何も伝わっていない。これは当然主人公が言葉にしていないから。
でも、読者には伝わっている。モノローグとしての言葉が伝わったから。
現実に置き換えてもわかる。誰かが誰かを想っても、ちゃんと言葉にしなければ何も伝わらないし何も起きない。こうして文字に起こしたりしなければ消えゆく想いである。もったいない。消えていくその愛を僕にわけてくれ。
友達以上恋人未満のやっかいなところはそこにあるのかもしれない。きっとどっちかが、決定的な一言を言ってくれる、大丈夫、きっと……。
そんな親密な甘えが「友達以上」に乗っかって、きりりとした関係性の痺れが「恋人未満」にぶら下がれずに宙に浮く。
宙に浮くそわそわした感覚が好きなのであればそれでもいいが、いつかは地面に降りなければならない。僕たちは地上を歩く生き物なのだから。
「言ってくれなきゃわからない」
それはお互い様だろうが、口火を切るのはいつだって男なのか?
たまには楽をしたいものです。
あ、あと『林檎は枯れない』も「堀一分」もこの世に存在しない作品と人物です。フェイクでした。無意味なフェイク!
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