夜を舐める。
夜を舐める。
舌の上で転がしながら溶けていく夜に、軽く歯を立てる。
甘く緩やかでねっとりとした感覚が喉の奥に伝って、不意に噛み砕けなくなる。
どうして眠れないんだろう。何のために夜を舐めているのだろう。仰向けになって口を開けるとまた夜が流れ込んできて口を塞ぐ。
昼と夜で姿が変わってしまうのは、猫の目だけじゃないようだ。
昼の空気はしっかりと肌にくっついて離れないのに、夜のそれは小さく丸い飴玉みたいになって口にすっぽり収まってしまう。時々、虫歯になりかけた歯が甘みに耐えかねてキリッと痛む。そうなるとどうしたって眠れなくなる。そう、眠れないのだ。眠れない。僕自身が夜に舐められているのかもしない。どうにも落ち着かないのはきっとそのせいだ。
窓を開ける。流れ込む空気は湿気を帯びていて、ペトリコールが鼻をくすぐる。深呼吸をする。
全身に夜をとりこんで、また仰向けになって寝転がった。夏の、夜のことだ。
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ちなみに、蛇足的補足をしておくと、イノウエは虫歯になったことがないので歯医者の怖さもわかりません。どうだ、羨ましいだろ。
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