椅子取りゲーム。

椅子取りゲームで最後まで残ったあの時、ギッと睨み合ったタケシ君の目を、そしてゲームに負けたクラスの子たちの退屈な視線を、よく覚えている。

その日、なでしこ保育園のさくら組では椅子取りゲームが行われていた。円形に並んだ椅子の周りをオクラホマ・ミキサーと共にぐるぐる回る。曲が止まったら即座に椅子に座る。人数より少ない椅子は瞬時に埋まり、弱者は無情にも弾き出される。
5月生まれというだけで周りより少しガタイの良かった僕はこの手の争いには多少強かった、と思う。今では到底考えられないのだが。

とにかく、その日は最後まで椅子取りゲームに勝ち残っていたのだ。残る椅子は一つ。相対するはサッカーが上手く、背が一番高いタケシ君だった。
こんなもの今考えれば曲が止まった瞬間に椅子の前にいた方が勝ちだから先生の裁量次第でなんとでもなるし、極論ただの運ゲーだ。実力の差はその勝負に影響しないだろう。

でも僕は本気だった。負けたくはなかった。たった一つかもしれないその椅子を勝ち取りたかった。運かもしれないけど、運じゃないかもしれなかった。
新しく始まる椅子取りゲームじゃない。今この瞬間に流れる音楽を止めたい。そして席を奪い取りたい。その一心だった。


結果は、覚えていない。
その勝敗よりもタケシ君と睨み合っていたことを覚えているのはどうしてだろう。オクラホマ・ミキサーが鳴り始める緊張と、それを囲む退屈な視線が脳裏に浮かぶのはなぜだろう。
きっと今もオクラホマ・ミキサーは流れ続けている。たくさんの椅子取りゲームグループが輪を描いて椅子の周りを緊張感を持って回っていることだろう。天上から見たらきっと壮観な景色だ。
その中の一部の輪では既にオクラホマ・ミキサーは鳴り止んでいて、椅子を取った人もいる。未だ鳴り続け、少ない椅子の周りをぐるぐる回る僕は憂いを帯びた足取りで参加者の顔を覗き込み、そしてまた不安になる。

オレが椅子の真ん前を通った時にオクラホマ・ミキサーが鳴り止めばいい。いや、鳴り止むべきだ。いや、鳴り止まなければならない。
いや、鳴り止んでくれ。


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就活のことを「〜ゲーム」って例えるの陳腐だし『何者』の主人公みたいですごく嫌なんだけど、書いちゃったもんは仕方ないんでね。許してくれ。誰に許し乞うてんのかわからんけど。

そんなんだけど、イノウエは。

つれづれなるままに!ひぐらし!

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